「主役と小さな名脇役」
2018.11.9
大地の芸術祭2018の期間、
関連情報を見るたび目にするトンネルから見える渓谷の写真。
清津峡は前々から行きたいと思っていたスポットでした。
芸術祭が終わってもしばらくトンネルは見ることができることを知り、
先日ようやく行くことができました。
写真は少し前に行ったときのものですが、
紅葉の際にはきっと素晴らしい絵を見ることができるのだと思います。
行った当日は雨。歩くにはあいにくのコンディションですが、
しっとり濡れ深みのある緑を見るには悪くない条件です。
全長約750mのトンネルの先に目的地があります。
歩き始めると以外と演出されたトンネルだと気づきます。
グリーン、ピンク、オレンジ。色とりどりの照明。
トンネル内も随所で横に外まで抜けており、和食の箸休めの役目をしています。
トンネルが緩やかにカーブし始め、徐々に壁を照らす光が強くなったとき、
ぱっ、と開ける視界。
気持ちを盛り立てるドラマチックな演出の先に、
目的の反転渓谷(勝手に命名)に到着です。
渓谷を水面にきれいに映すため、
水槽の底は黒塗りになっています。
歩ける脇の通路からなだらかにくぼませ水面と通路面が同面になっているので、
境界が消えより一枚の大鏡のように見せています。
渓谷の雄大さを大きな水面に映し出すというダイナミックな仕掛けの中にある、
水面のエッジを消すという細やかな配慮。
まさに主役が映える名脇役です!
大きな目的をサポートする小さな気遣い。
ここでは作品というかたちでしたが、
様々な場面でも通じるものがあると思います。
屋外のトイレは床が汚れていることが多々ありますが、ここはキレイでした。
建物の中でもないのに、スリッパを履きかえさせることが効いていると推測。
心理的にキレイに扱おうという感情と、濡れた靴が水を引っ張らない物理的配慮が
清潔さを保っていると勝手に解釈しています。
外観も一見、UFOが秘密基地で一休憩しているように見えますが、
中は想像以上に広く、水洗でトイレ周りもこぎれいになっています。
面白さと、清潔なトイレという実用性が両立したオブジェ。
トンネルから見る清津峡の写真だけを頼りに行ったので、
現地で楽しい驚きに出会うとうれしくなります。
建築にもシークエンスという考えがあります。
目的地に辿りつくまでのプロセス。
感情に語りかけてくるすばらしい出会いとなりました。