高田清太郎ブログ

NO.16 「美しい集落・宿根木」・・・・表を支える舞台裏感動



エッセイ

六月、佐渡での結婚式に招かれたのを幸いに、小木港から宿根木を回ってみることにしました。宿根木は江戸時代に回船基地として栄えた村であり、船主や船大工職人たちの住んでいた百軒近くの集落です。
坂を下っていくと、右下眼下に突然に広がる集落の屋根群。かたずをのむ別世界。午後の陽光が、薄雲を通して、かわらにしっとりとした反射を残してくれてい ます。平場に下りて家々の小道に入ると、置き忘れてきた大切な空間を思い出させてくれる。当然ながら車は入れない。庇(ひさし)と庇、軒と軒が肩を並べる 本当に小道です。所狭しと異方向に伸びる屋根・外壁が妙に心地よいのです。二十数年前、初めて欧州に旅行したときの感動が甘く入り混じってきたのです。

地中海に浮かぶミコノス島(ギリシャ)、水の都ベネチアを訪れたときの感動と、宿根木の集落が、歩くうちに重ね合わさるのです。これらに共通するの は歩行者だけしか許さない空間であること。現在は、ここを離れていく若者が多く、ひっそりともしている。私たちは、公開されている民家(船主・清九郎さん の家)に入ることにしました。
ボランティアのおばあちゃんが案内してくれる。その時間帯は私たちだけでなかなかリッチな気分。一階土間から二階へと案内を聞いていると、私たちの後ろで 一緒に観覧している娘さんが目にとまる。しかも一生懸命にメモをとっている。後に判明したのですが、現在案内してくれている三人のおばあちゃんの後を継ぐ ための見習い修業を今日から始めたとのこと。本当にまだとても若い娘さんです。「よくぞ決心!」と一人訳の分からない思いにふけってしまいました。
表を支える舞台裏。どんな世界にも通じるこの仕組みがいっそう私を感動させる。どんなに美しい集落でも時に合わせて人の手が加えられなければ、余計に寂れ てしまうことは自明の理。日本木造最古の法隆寺は、地元の材木を使い、なおかつ立っているときの方位のままに建築材料として使うから、一千四百年も持った という。解説はなんとも分かりやすいが、非常に短絡的でもある。実はこの法隆寺も多大なエネルギーと資金を使ってのメンテナンスフォローをしてきたこと が、現存している最大原因だと聞くと、深くうなずくことができます。ここでも表を支える舞台裏の大切さを確認することができるのです。今宿根木は新しい案 内人を迎えて新たな世紀にいぶこうとしています。そっとのぞいてみてください。私たちが忘れた空間を与えてくれます。歴史ある住まい、集落には不思議な力 が潜んでいるのです。