高田清太郎ブログ

摂田屋総選挙:まちづくりコンペ開催!



建築/巣舞.間知.趣舞

わが社のホームグランドである長岡市の摂田屋は歴史を持っている町である。
かつては天領の地であり醸造業の町として栄えた。
高度成長期には新しい産業に追いやられ相対的に勢いを落としていた時期があった。
しかし、バブルがはじけて以来大切なもの探しが始まった。
摂田屋の町もそのような状況の中で再発見されたのである。
人は未来が見えにくくなると代わりに過去を見る習性があるようである。
数年前から有志によって”せったやまちおこし”が始まった。
毎年10月の第一土曜日には長岡市の米百俵祭りに連動して”摂田屋おっここ市”が開催されている。
摂田屋の醸造業の企業を中心に生産品を直売する青空市の開催である。
この日には1万人以上がやってくるから普段は静かな町も勢い華が咲く。
また、かの鏝絵で全国的にも有名になったサフラン酒はその中心部に位置している。
サフラン酒の眠っていた看板が再び戻ってくることになった。
ここでも町おこしの有志の熱い思いが実ったのである。
そして息を吹き返したこの看板が4月1日に開館する
長岡シティーホールプラザ:アオーレ長岡でお披露目されることになったのである。
記念として4月8日には建築家藤森照信氏による記念講演がアオーレにて開催される。
藤森先生の建築にはバナキュラーな香りがいっぱいであり心温まる懐かしさが醸し出されている。
私の大好きな建築家の一人である。

そんな摂田屋のまちおこしが仕掛ける整備事業がまたひとつ始まった。
摂田屋総選挙とうたったコンペティッションは長岡造形大学の渡辺誠介准教授を中心に行われた。
市民が投票するコンペである。その総括として私にもパネラーとして参加依頼が来たが、
あいにく3月11日の開催時間には別件と重なってしまった。
出席できなかったのでコメントをするようにという依頼を受けた。
以下転載させてもらうことにした。

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Comment!

摂田屋総選挙(三国街道・トイレデザイン):作品コメント!20120311
(株)高田建築事務所  高田清太郎

* 常日頃は「醸造の町:摂田屋の町づくり」に多大なるご支援くださる
長岡造形大学の渡辺誠介准教授にまずもって敬意を表させて頂きます。

・ そして、そこに参加される皆様から提案されたアイディアには時空間を超えて
歴史が醸し出してきたエネルギーを大切にしようと挑戦したものが圧倒的に多く、
醸造の町をより一層活気づけようとするものでした。

・ 歴史観はその渦の真っ只中にいると分かり辛く、ちょっと距離を置いてみた方が
良く見えることが多々あります。同時に一つのモチーフだけを強烈に取り上げて強調すると
生活が見えなくなることがあります。

・ そもそも今回のテーマは摂田屋住民から何時になく聞こえてくる
「現状摂田屋に不足するもの」の中から選ばれた二つのテーマ(トイレ部門と三国街道整備部門)でした。

* 全体作品を通しての寸評
① トイレ部門では5案中3案が樽をモチーフに提案されていた。
醸造業=樽と圧倒的に分かり易くもあった分、
強烈にアッピールできるであろうから尤もである。
但しそのような場合には形を短絡的に移入しただけと言う表層的にならないように注意しなければならない。
・ 取り分け21票という多くの人から投票数を獲得した「樽」はザ・タルの象徴性そのものであり、
サイクロイド曲線を持たせたプランニングを用いることで造形性に富みインパクトがあった。
シンプルであるが故に説得力がある。
・ 快食と快便は快眠とくわえて人間の健康の3大生理バロメーターである。
食料製造装置と排泄機能装置の組み合わせはその分コンセプトを確りと確立しないと
マイナスのイメージを作り出す危険性が内在しないとも限らない。
・ 2番目に10票獲得した「瀬っ田のといれ」のコンセプト力は
「樽」とは違った意味で評価を加えたいところである。
プランニングは男女のトイレスペースを対象的分けた
非常にオーソドックスなものであるが、
その周辺を膨らませたことである。特に酒瓶入ケースを積み重ねて
本体のトイレスペースに一皮かぶせていることである。
このスペースが憩いの場になるかどうかは一抹の不安は残るが
何気ない見慣れた景観の中に日常を上塗り出来るのではないかと期待するものである。
車いすトイレも他案にない配慮であった。
② 三国街道整備部門:
・ 景観保全の立場からも視覚的改善と機能的改善の必要性(整備要求)が見えてきた。
・ 古くなって破壊されつつある三国街道の路面仕上げをどうするか?の問いに、
多くの案が石畳を提案している。
(もしそうであれば地元産の釜沢石も加えて頂ければよろしいのではないだろうか?)
・ ローマの街道は各都市を結ぶためや戦時の兵站機能をスピーディーにするために
何百年と石畳を補修していた。街道の保全はローマ帝国の死活問題でさえあった。
・ 一方、時代が下った三国街道はかつての様な道路機能としては要求されておらず、
ニーズは飽くまでも「散策者に対する景観保全」としての方向を明確にしている。
・ まちの色は何色と問われれば酵母菌によって発生する黒カビの色:黒色は
醸造の町そのものの色である。その意味からは黒の石畳は説得力がある。
・ 石だけではなく記憶を残す意味では堆積した過去の土を表土とする案も頷けるところである。
醸造の町と土・土縁はとても自然である。
・ 足元を照らす街路灯の設置は黒色と共鳴して幻想的でもある。
・ 散策途中のベンチは是非とも取り入れてほしいと思うのである。
その時も単にベンチではなく、醸造の町をイメージできるデザインを要求したいところである。
・ さて、最後に数名から共通提案されていた道路融雪設備についてであるが。
・ 確かに都市生活するうえでは交通機能確保は必要である。
(しかし、私は同じ町の近隣に住みながらこの街道に融雪設備機能が
必要とされているかどうかのニーズ情報を持ち合わせていないので
コメントを差し控えなければならないかもしれないが?)
・ 歴史ある風景・雪国の風景を残すのには格好の場所である。
(豪雪風景をわざわざ歴史博物館まで足を運ばなくてもよい。迫力でも圧倒するはず)
そもそも融雪設備の歴史は大変短い。
むしろ、三国街道は屋根から下された雪をそのままにして不便をしていた、
かつての雪国の都市生活を偲ぶには欠かせない要素としてとらえる方が良いように思う。
・ 豪雪は敵であると一蹴してしまうことが出来ないのは醸造の町の宿命である。
文化として捉えれば豪雪は豊かな水の源!大豊作に導き、
豊かな伏流水は醸造の町を作り銘酒が生まれてきた。
安易に融雪設備の設置は如何なものであろうか?

* 最後に、このコンペティッションを契機に本格的な町づくりに拍車がかかることを祈念するものである。


建築の進むべき道は分かっているが
答え方がわからない?


最も多くの票を獲得した”ザ・樽”トイレ計画


酒ビンケースのトイレ案!


提出案はトイレ案・三国街道整備案とも5案ずつ