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老健施設「ぶんすい」


燕市
福祉医療

介護老人保健施設「ぶんすい」プロジェクト設計コンセプト

『空聞・時間・建築』は、いつの時代でも建築計画をする者達にとって常に考えなければならないテーマである。

介護老人保健施設『ぶんすい』は、時代の背景に少子高齢化社会の到来から予想される介護保健法の成立に起因している。
ゴールドプラン21は医療保健から介護保健へ大きく舵をシフトする時代のプランでもある。

 

介護が必要な高齢者の数は毎年10万人ずつ増えつづけると予想されているのだから、介護基盤整備は急務である。

建設地は越後平野を信濃川の氾濫から守るぷんすい堰に近接しており、記念の桜並木は後世の人達に当時を偲ぶ縁日の場所を用意してくれた。そして何にもまして「老人の居場所とは一体何か」とあらためて問いなおすものであった。

人類の旅は、そもそも人間の居場所探しの旅でもあった。

“包み込まれたい”生理的欲求は人が母の胎内にいるときに培われ、“囲いを造りたい”欲求は外敵から身を守る事を学んだ人間の知恵そのものであった。

同時に包み込まれたい欲求と開放された居場所に居たい欲求の相反する計画の実験でもある。

① 計画の背景

少子高齢化

② コンセプト+老人保健施設に寄せる思い

六想人の旅人+dnaの運び屋+人生は川の流れに例えられて+母なる大海へ

振り返ると、そこには確実に足跡がある。ヨチヨチ歩きの足跡、元気に飛び跳ねた足跡、しっかりと威厳のある足跡、急ぎ足跡、トボトボ足跡、点から線になった足跡・・・人は様々な足跡を残す。まさに、足跡は歴史でもあり!人生を旅人に喩える事が出きるわけである。

人の歩んできたその時代の・その時の・断片を垣間見ればまさにドラマが展開されているのです。しかも独特の個性を持って!
その足跡の中にこそ人生の喜怒哀楽を見ることが出きるのです。『笑想』『怒想』『悲想』『楽想』そして『冥想』『無想』を付け加えて、人生を『六想人の旅人』になぞらえてみる事にしました。

一粒の種が地に落ちて、やがて大きな枝を張り、そして実をつけるのです。そして時が流れ、種をつけた実は落ちて再び新しい生命を宿すのです。進化と革新を遂げながら!

ホーキン博士の『人間はdnaの運び屋だ!』とは、けだし名言です。
又、日本人に愛着のある演歌には『人生は川の流れ』にが、度々登場してきます。
ゆったり流れる川面もあれば、急流で砕け散る水変幻も見ることが出来ます。
いずれにせよ、必ず川は流れて再び母なる大海へ流れつく・確信という船を浮かべてくれるからである。

 

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屋上に設けられた六想人

 

多元的同時性

物事には必ず多面性がある。
しかし思考形態を合理化するために、2元対比方式の方が説得力を持つ場合が多々である。良いか悪いか?イエス オア ノー?である。

更に、弁証法的思考は近代の手法として最も闊歩した事でもある。
だからこそカオス的世界においては、デュオニソス的存在を無視できないのであるが。

それは、いとも簡単に多用している「人生って割り切れないよなー」と言う言葉で代表されているものでもある。割りきれないのが人生だと言っても良いのに!と囁き声が聞こえてきます。

「小悪の向こうに大が潜んでいる。」と言う諺は、「小善は時に大悪であり・大善は非情に似たり」という言葉を同時に暗じさせる。

デザインソースとしては、『多元的同時性』…様々な要素を同時に混在させる事で、まさに日常の形態を表現しようと試みたものである。

例えば、
①東西南北の夫々の顔
②内部空間の外部化
③点・線・面・魂点
④光の透過度ランクのバリエーション
⑤バナーキュラーな素材を積極的に取り込む
⑥計画者と生活者のマルチレンマ
⑦etc

モロミの醗酵に例えて/ムロ+コア―

朝靄には、妙に強烈な生気を感じるものである。日の出の光でくっきりと映し出された視覚的創造の瞬間とも違って…生命の、まさに誕生のエネルギーを強く覚えるのである。

多分に母の胎内で初めて意識した「生命」そのものを感じるのかもしれない。

その昔、宇宙が出来たその渦の中で!創造された生命がdnaという船に乗って長い旅に出かけた。と言い伝えを聞いた事がある。

物心がついた頃、醤油やさんのムロに入った事がある。数メートルもある桶の上はフツフツと醗酵する沫で賑やいでいた。

梯子を降りて、桶の底地に立つと、まさに圧巻!桶と桶の間を縫って差し込む光が、なんと朝靄の光と全く一緒なのだ。
いやむしろ、朝靄に覚えた『生命力』そのものと同じ安堵を感じたといった方が適切なのかもしれない。いずれにせよ、押し詰められた小宇宙の中での出来事であった事に変わりは無い。

私はこの空間が脳裏から離れず、とても好きであった。
そしてそんな空間を作れないものかと初期計画の段階からメインコンセプトとして登場する事になった。2f・3fの療養室群にそんな空間を再現する事にした。

長期に滞在するのであればあるほど箱型空間から抜け出して、そんな魔法の空間に飛んで見たいものである。…と想った。

―――――ムロと朝靄の空間!

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a:外観

東西南北に夫々の個性を持たせる。
将来の他の福祉施設計画分を除いた敷地形態(南北・120メートルx東西・30メートル)の中での計画で始まった。

西面:メイン接道側である。
しかも、300メートル離れて、この地域のメイン幹線道路である国道116号からはっきりと遠望できる好敷地でも有る。つまり、西面が当施設の顔と言って良いだろう。
ボリュウムは84メートルの長さに対して3層13メートルの高さである。
そのままではフロンタリティー〈正面性〉の気だるさから逃れる事が出来そうに無い。

何とか退屈さを避けるためにも、手法として、

① 陰影感をつけて立体的にする。/1.5メートルの外側にもう一皮作りベランダ能を持たせ同時に、施設の象徴としての家屋群壁を作る事で対応した。鉄板板は、入居者に家と言う概念を残しヒューマンスケールに対応する事とした。

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② 水平面を分割する。/メインイントランス。排気煙突塔。厨房アール壁。そして屋外階段で軸に分割する。夫々の頂部にはモニュメント的な金物を取り付けて対応する。メインイントランスにはクラウン〈冠〉を。排気塔にはチムニーキャップを。

そして塔屋には草木のなびく波と風をデザインしてみました。又、屋外階段にはイグヅィットくちばしを。
尚、それらには、『透過・半透過・不透過』のハイラルキーをつけた表情にしてみました。

東面:ぶんすい高校のグラウンドと接しており、若者との賑わいを共有できる面でもある。
グラウンドの向こうには、越後平野の田畑が広がり、東山連峰がゆったりと横たわっている。
2階・3階の療養室からは、のどかな風景が遠望できるのだから施設にとっては願っても無いロケーションになっている。
表情としては最もシンプルであり、避難用のベランダがリズムを添えてくれている。

南面:デイ・ケア―の入り口側である。

又、一般利用者の駐車場側でもあり、施設利用者御家族その他の関係者が最も頻繁にアプローチするサイドである。
西側正面玄関にも勝るとも劣らない表情を作り出さなければなら無かったのもその為である。

2階・3階へとセットバックしており、夫々の階のデールームの南面になるテラスは絶好の日向ぼっこスペースでもある。

将来は増築計画も考えられており柱・梁のフレームも7匹のふくろうを置くことにより、増築機能としての梁のイメージを払拭してくれた。
まるでこの施設の『シーサー』的モニュメントになってくれている。

エントランスポーチの屋根はアールのフライングルーフとし、屋外階段の屋根と、r階の増築用梁の上に繰り返す事により、リズム感を持たせようとした。ここでもrc構造における、重量感から解放するために透過・不透過の構成を試みてはいるものの、今1歩である。
そこで、更にハイラルキーの増大を図るために外階段にアルミパンチングメタルの半透過性(52%、28%の透過率)を採用する事とした。

北面:職員玄関側である。地域的には住宅地側である。
職員用の駐車場と、屋外設備群の設置場所でもある。
又、ぶんすい高校の正門側と並んでいるので比較的にシンメトリーの静を取り入れる事とした。
道を挟んで保育園がある。当敷地の中に、お年寄りと子供達の語らいスペースも初期の計画の中にはあったが、諸条件によりはずされる事になったのは、大変残念な事でもある。いつか復活されん事を祈って!

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b:内部空間

流れ:design is simple! space is flowing!

ぶんすいは分水の町である。水は方円に従う。相手の形に七変化する存在でもある。
だから、こだわらない。よって、流れるのである。

この度は、水のデザインを光に置き換える事で、初期コンセプト作りが始まった。
春における『ぶんすいの桜並木』は他とは別格だ。
八文字歩きのおいらん道中で、祭りは山を迎える。(一度は、是非ご参加されん事を!)

こんな華やいだ空間をテーマに加える事も課題の一つであった。
メインイントランスからアプローチすると、ホール正面にカーブしたタイル貼りのテラスが広がる。室内はこのカーブにそって機能訓練室へと招かれる。
そしてここが『八文字』と『桜並木』そして『流れ』の饗宴場となるように表現したものである。

つまり、7本の円柱を桜の木になぞらえて、大きく張った枝を楕円形の照明にする事にした。
この木々はスイッチを入れると、2秒間隔で点灯していく仕組みになっており、壁に反射をしながらも20秒後にはelvの入り口のポーチ灯へと到達するのである。『光の流れ』である。

又、桜の花には独特の妖艶さが秘められている。それを、120個のdnライトを天井にちりばめる事で表現しようとしてみた。夫々にクリスタル反射ボールを持たせる事で川面にキラキラ光る水を表現したものでもある。『水の流れ』である。

ガラスブロックで作られたアール壁面には空と山と桜の木のシルエットを埋め込む事で、日没や雨模様の沈んだ日にも賑わいを醸し出してくれる事を期待するものでもある。光の流れと水の流れに加えて『風の流れ』である。

中庭のオブジェはアール天井にそって置かれているものである。『点・線・面・魂』『透過・不透過』『個・集』『戸・大きな家』………当施設の通奏低音としてのテーマでもある。そんな思いの一つの表現である。

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物語:ととろの森はファンタジーの巣舞。

2f・3fの療養室への入り口は、やはり、ととろバスで出発する事になるらしい。
はらぼてのととろバスから降りると、そこはファンタジーの世界!室内にいるようなのに、空が広がっている。家の中にいるのに、家の外にいるようでもある。歩けば、木々の間を抜ける様でもあり、夕暮れには、夫々の家並みに門灯がともる。心温まる居場所を見つけたい。『温もりの居場所』は昔から、ととろバスで出発だ。

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療養室:入居者の自分の専用居場所である。時代は益々、個室化傾向にある中で様々な条件のもと今回の計画には4床室:21室と2床室:2室そして1床室:12室の合計100人床確保である。

1床室:入り口はフラットで、ベットの置かれる奥側は壁から立ちあがった珪藻土のアール天井で覆う事で安らぎを得ようとしたものである。専用トイレは腰壁パーテッションで簡単に区画するにとどまり、室内を狭小化し無い様につとめた。

2床室:複数の最小単位でもある。余計に、難しい部分でもある。共用という平等のもとでどの様に区画するかが課題である。まず、中央のフラット天井で大きく分割する事である。それそれの方向から立ちあがった壁がそのまま珪藻土のアール天井になる。敢えて、2台の洗面器を作りつけるのも2と言う単位の共同生活への配慮からである。

4床室:最も多いスタイルである。夫々の空間を天井の段差で分割してみた。大きくは中央のフラットで、50ミリ上げた天井は更に2ベットを区画するようにしている。共用の洗面台が一台.そして入り口脇の共用スペースはベット空間への緩衝帯となってくれている。特に共用部分とベットの間は、障子壁や、和紙、そして家具関係で区切る様にしている。
*いずれにせよ、個と集と共用のあり方については様々な区画と連続が考えられであろうが天井とつい立と家具で分ける事とした。

トイレ:中央部のコア―部分に集められるタイプではなく、4床室と4床室の間に1個のトイレを作る。丁度、家庭における距離感と同じ位の位置を求めて。

アルコーブ:所々にちりばめられたアルコーブは心地よいたまり場。ちょっとしたコーナーは時に自分だけに必要な空間。

共用ゾーン:浴室・トイレ・リネン・倉庫・等は中央部分にまとめて家の中の家のようなコア―を造ってみました。

elv:2台の内の一機は両面開放が出来ます。特に浴室使用時間帯は機能訓練室側は閉鎖されて、浴室側のみ開放されます。つまり時間帯での切り替え機能を持つ事になります。そしてもう一機は、食事運搬車がメインになります。2f・3fの食堂・談話室側に接続される事になります。

素材:珪藻土・和紙・木材・サンロイド等を多用し出来るだけ素朴さと親しみやすさを採り入れる事にしました。

カラーコーディネート:色調も”はんなり”(カラーコーディネーターよりのコンセプト)の中にもメリハリのあるものと致しました。

照明様々:間接照明を基調としながらも、様々な組み合わせで空間を何倍も楽しめる様に提案させて頂きました。

家並:入所者は今までの個別の生活空間(家庭生活)から合同で生活をするわけである。施設建築にたずさわらさせて頂く時にいつも直面するテーマがある。『計画者と生活者』の問題である。それまでは、家庭では主導権を持った生活者であった。しかし、施設に入る時に計画者側のコンセプトに住み込まなければならない。一気に被計画者としての立場を強要されてしまうのである。そんな感覚を少しでも和らげるべく、外壁ファサードや各戸の存在を小さく分ける事で家庭スケールにまで落し込める様な提案の一つである。又、室内空間を外部化する事で、一つの建物の中に空を持った町並み空間あるいは、集落性をもたせて日常の空間に少しでも近づけた試みの一つである。

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医療保険、介護保険が複合化する時代、少子高齢化時代、老人保険施設は、大きな社会的needsを持っております。

大きなグルーピングの中では、共同生活施設である老健は、個(プライバシー)と集団(パブリック)という概念をいかに建築空間に捉えるかが大きなテーマでした。

単調になりがちなファサードはいくつかに分割され、家々の集まった形をとり、スケールにおいて、近隣との調和を図っております。

内部空間は、8文字空間と桜並木のフォルムをしたメインホール。
2階、3階はエレベーターを降りると大きな空間の中にムロをスペースイン。

この度の施設名は、分水の地名にならって「ぶんすい」、水門をシンボルモニュメントとして採用しました。

お年寄リの人違へ
本当の私の居易所が、この施設の中でも見つかります事を祈って…