高田清太郎ブログ

NO.11 「創る時代へ」・・・・「思い」の世界に住む



エッセイ

人の歴史は古来より「居場所獲得の歴史」だといっても過言ではありません。ダイレクトな獲得歴の代表は戦争といってよいでしょう。一方、人間が社会 的な動物であることは、その居場所が三次元的空間だけではなく「地位・肩書」「名声・名誉」に代表されるような精神的居場所を求めていることも否めませ ん。
「対象喪失と人間の行動」について、小此木啓吾慶応大教授の講演がありました。人間は愛する人・動物・物を失ったとき、どのように対応するのだろうか。ま た目標を達成した後に新たな目標が見つからなかったとき、私たちの心の中に起こる精神状態やそれを補うためにさまざまな行為・行動に出るといったお話でし た。

先日オープンされたK音楽教室のKさんの場合はどちらかというと物に対する思いではなく(全く反対で)、今ひとつ景気もはっきりしないが、新しい世 紀の始まりに、明るい話題を建築の中に盛りこもうというものでした。二年前からミニコンサートホールを作って町に花を咲かそうという計画で、建築デザイン にも華やかさを取り入れた計画で進めておりました。
ところが、計画のゴーサインを頂いて間もなく突然、ご主人の病気が判明、三カ月後に旅立ち宣言がなされたのです。当然なことですが計画は中止です。家族や 仲間たちの心の中にぽっかりと穴をあけたまま月日が流れ過ぎていきました。やがて旅だったご主人の遺志を継ごうと(ご主人の思いと一緒に住もうと)、一年 後に計画再開、そしてオープニングリサイタルも盛況のうちにとり行われました。
さて、私たちは住まいづくりするときには、さまざまな情報を得て、あれもこれもと夢は大きく膨らみます。希望の大きさに応じて優先順位を作り、そのイメー ジの中にすでに住まい始めるものなのです。できあがった建物が期待通りになったときには、エネルギーをかけた分、その喜びもひとしおです。しかし、反対に 期待通りにいかなかったときにはショックも大きく、たとえ他者の目から見た時には大層立派な家であっても、本人の思いは大きくくじかれたことになります。 単なる代用では済まされません。そんなときには建築屋として本当に申し訳ないことをしたことになります。建築は建築資材という物を使って組みたてていくの ですが、されど単なる物ではない。物の向こうにある「思い」の世界に住むということを常に肝に銘じなければいけません。
豊かな時代背景は「選ぶ時代」からわが家にあった住まいを「創(つく)る時代」へと移行してきました。できたものにではなく、作っていく過程、その思いの中にこそ、もうすでに住み始めているのです。