高田清太郎ブログ

NO.23 「多間里場」・・・・「かまくら」をモチーフ



エッセイ

昆虫がふ化〈メタモルフォーゼ〉する姿を見ていると、その美しさに見ほれることがあります。卵から幼虫になり、幼虫がさなぎになりやがて殻を破って成虫が 出てくるのです。住まい造りも、設計段階から工事中にはちょうどこれと似ていることが起こっています。基礎から上棟、仕上げ、完成引渡しと、現場ではまさ にふ化している姿を見ることができるのです。
さらに完成後の建築において、時間と気象の変化が織り成す姿、形の内に美しいふ化を見ることができます。天から舞い降る雪は、大地を一瞬にして白いキャン パスと化してしまいます。その雪が降り積もったときにつくる姿形は、雪のないときの形とはおもむきを大きく異にすることを雪国の人々は経験しております。 まさにその一時の造形美でもあります。ぽったり積もった棚田を作ったり、雪がマシュマロのように映し出されたらとても感激です。
「黙っていても、みんなが笑顔で集まってくるような家が欲しいなあー」というUさんに出会ったのは五年前。敷地は長岡ニュータウンのメイン通り。雪が降る と大変な土地であるという評判(?)はまんざら誇張でもないらしい。そんなに雪深いなら、いっそのこと雪に埋まった大雪時にふ化するようなデザインにしよ うというコンセプトで計画がはじまりました。雪に埋まったときの姿形をイメージし、雪国のシンボル「かまくら」をデザインモチーフに選びました。大雪が やってきたときに現れる時限的なデザイン「かまくら」は寒い雪国に温かい風景を添えてくれます。かまくらの中はろうそくの灯で無彩色のキャンバスに花をそ えるものです。それと同じように室内はムク材の力強さを、そのまま表わした構造デザイン。白熱灯のあかりや、ムクならではの質感が暖温かみのある空間を提 示してくれます。さらにそれらにまけないごつい手作り家具の節やひび割れは、味わいのある生きた表情をつくりだしてくれます。
家そのものが広場かギャラリー。いつでも仲間がわいわいできるみんなの「たまりば」(多間里場)。多くの人たちがさまざまな作品を持ち寄って展覧会を開い たり、定期的にミニコンサートが開かれたり、いつも夢と希望にあふれています。そこに暮らし、そこを使う人によって異なってくる住まいや空間。冬に限らず ニュータウンの豊かな春夏秋冬の自然の恵みを受けて、常に進化しふ化する建築の居場所です。「希望『多』き人ら、忙しさのはざ『間』に我がふる『里』に帰 りて、心の居『場』所を楽しむべし」と言うコンセプトでふ化したのです。