高田清太郎ブログ

NO.38 「個室の是非③」・・・・居場所は距離感が大切



エッセイ

おじいちゃん、おばあちゃん、どのくらいの部屋が欲しい?「寝室は八畳にクローゼット、出来たら広縁も欲しいな!
トイレに近い場所が良いし、将来車椅子のことを考えるとふろにも近いほうが良い」など、大きさや配置に至る話題が出てきます。もちろん部屋さえ造ればそれで役目を果たしたということにはなりません。同居型多世帯における老人室について考えてみましょう。
個室を考えることは、”人間の居場所”そのものを考えることといっても良いかもしれません。人と人の”間合い”の大切さは人間という文字で表されます。人 の居場所を考える上で大切なキーワードの一つにパーソナルスペース(個空間)を確保する『距離感』があります。近づき過ぎて息が詰まったり、離れすぎてす き間風が通り過ぎることもあります。
今から六年前に建築された長岡在住のSさんの場合は、88歳のおばあちゃんのお部屋を建て替え前の配置を考慮しながら、最も日当たりの良い東南方向に離れ 形式で取ることになりました。離れはどちらかというと奥に追いやられたという感覚になりますが、Sさんの場合にはむしろ外からアプローチする一番先端に位 置しています。外部情報が最も近い位置にあるといってよいかもしれません。離れの東側はS邸のメイン通路に面しており、疎外感が生まれない良い位置のよう です。西側は、座敷からの南庭を共有できます。
老人室への前室として、座敷つながりに三畳の畳が敷かれ、ちょっとしたお茶のみ場所にもなっています。ここは、昔からの庭が見通せ思い出の空間にもなっています。老人室を考える上で思いでの空間を演出することは、大切なポイントのひとつです。
「老人はいかにありたいか」千差万別です。しかし、共通項目はいくつかあります。老人は自分だけの領域を持ちながらも、世帯間を越えて家族との空間を共有 し、子孫に自分の経験的知識を本能的に伝授したくなるのです。 居場所は距離感が大切です。そして、距離は物理的尺度もさることながら、心の距離感を形に することが、もっと大切です。少子高齢化の時代、老人の個室については、さらに深く考えなければならないのでしょう。