高田清太郎ブログ

NO.62 「楽しい建築空間」・・・・“仕掛け”つくって変身



エッセイ

入り口から見ると近く見え、上座側から見ると遠く見える(上)、ダンスホール場右奥にあるトイレ(中)、

通常のトイレ(左下)、車いすトイレに移行中(同中)と完成した車いすトイレ(右下)

 

 

30年近く前に建築された群馬県立近代美術館には逆焦点 法の手法が採用されています。私たちの住んでいる視覚世界では、遠くに行くと小さく見え焦点に集束していくのですが、この美術館のエントランスホールの1 点に立つとすべての線が自分の方に向かって来る。まるで自分が焦点のように錯覚してしまうところに設計者の意図があります。刻々と進化するアートに期待し てのシンボルなのかもしれません。
7年前長岡市内のかっぽうから宴会場(70人くらい)の設計依頼をいただきました。そこで86畳の上り天井に遠近法のトリックを用いた仕掛けをつくること にしました。入り口側の天井幅を1メートル、上座側を2メートルとし、見る方向によって宴会場の大きさに錯覚が生じるのです。
天井だけ見ていると入り口からは天井幅の減衰が少ないので近く見え、反対に上座側からは余計に細まり遠くに感じられるという遠近手法です。入り口の給仕す る側からは近くにサービスでき、上座に座ったお客さまにはより大きな空間で快適感を与えるといった意図から生まれた仕掛け空間です。

長岡市のあるお宅は、将来多目的ホールにも使える幅6.3メートルで奥行き12.7メートルのダンスホール場を希望されていました。敷地の関係で、トイレスペースはどうしても奥行き90センチしかとれません。
依頼された条件に「車いすでも使えるトイレを造ってほしい」とありました。主に使われるダンスホールの内側にトイレだけが飛び出ることは許されません。長 さだけであれば取れるのですが、車いす用のトイレは奥行きも180センチ必要です。そこで、普段は90センチ×180センチの普通トイレとして使用し、車 いすで使用するときは組み立て建具を手前にスライドさせて、180センチ×180センチの広いトイレを作り出す仕掛けをつくりました。名づけて「ムービン グトイレブース」。住宅にも転用できる普通トイレが車いすトイレに変身する仕掛けづくりの提案です。
家族形態の変化や老後に対応できる柔軟な住まいづくり。家にあわせて暮らすのではなく、自分らしく暮らすために家のあちこちに変身できる楽しい仕掛けづくりを考えることは、決して無駄ではないはずです。