高田清太郎ブログ

コラボ de ブラーボ Ⅱ



イベント

トロハ賞を受賞された斎藤先生と秋山先生のコラボレーション

私の恩師であられる斉藤公男先生「日本大学理工学部名誉教授・日本建築学会前会長(2007年6月~2009年5月)」が、トロハ賞を受賞された。
エドゥアルド・トロハ〔Eduardo Torroja 1899-1961〕は、マドリード競技場等の代表作を持つスペインが、生んだ偉大な構造家として知られている。「空間構造」も「構造デザイン」の源流をたどればトロハにたどり着くと言われている。トロハ賞は空間構造の構造デザインの分野で、顕著な業績が評価された建築家が頂く賞であり、技術と芸術の融合と言う意味からも大変意義深い賞である。いわば建築構造界に於けるノーベル賞といっても過言ではない。
それだけに毎年末に開催されている“斉藤先生を囲む会”ではあるが、今年は受賞記念講演もあり研究室は更に盛り上がった。日本で3人目の受賞である。何とも快挙である。
1人目は東京大学名誉教授の坪井善勝先生〔1907年~1990年〕であり、シェル構造の第一人者である。主に丹下健三先生の構造を担当され、代表作には東京オリンピック会場になった代々木にある国立屋内競技場であり、現在でも第一級の構造デザインである)や東京カテドラル聖マリア大聖堂、万博の時のお祭り広場〔岡本太朗氏の太陽の塔は広場の屋根を突き抜けている〕がある。2人目が法政大学名誉教授の川口衛先生であり、3人目が斉藤公男先生であった。お二人は坪井先生の兄弟弟子の関係になる。
斎藤先生の授業はとても興味深く刺激的であり、一度は意匠系の研究室に行くことに決めていた私にストップをかけた。意匠の前に力の流れを知らなくては!という強い脅迫概念にも似たバイブレーションが、私を襲った。それ程にストラクチャーデザインの魅力は、強烈であった。テンション工法・膜工法など模型群に囲まれた研究室は、何時も活気があり学生達を刺激していた。
当時、私の頭から離れない言葉に「ながれ」があった。“人の心の流れ”は“空間の流れ”によってつくられ、更にその前に“力の流れ”がある。その力の流れが美しければそれだけで空間は美しくなり、人たちの心を感動させてくれるからである。余談ではあるが、それに比べて坪井先生の授業はリベット計算や難しい構造計算が主であり、受講者数が少なく余り人気が無かった。お喋りをしていると黒板に向かっていた坪井先生が突然振り向いて“馬鹿者ども”と一喝しながらチョークを投げるのである。それをよける生徒達を残して授業終了である。今になって思うと我々は、先生に大変申し訳ないことをしたことになる。と言うのは、“貴方にとって一番好きな建築は?”と聞かれたら今でも私は何の躊躇も無く先生の手がけられた代々木の国立屋内競技場と答えるからである。当社のデザインの一つに構造丸出しのストラクチャーデザインが見受けられるのは、その影響を現在でも引き継いでいるからである。
構造は構造・意匠は意匠と分離するのではなく、美しいストラクチャーを隠さずに表すことで、空間デザインに命を吹き込むのこと!そのためにも力の流れを!構造自体を!デザインすることが、大切である。力の流れが素直に表現されている空間は、緊張感・安心感含めて何とも言えない居心地の良さを覚えるものである。
さて、斎藤先生が日本建築学会会長の時に掲げられたテーマの1つ“アーキニアリング”である。「建築(アーキテクチャー)と設計・生産を支えるエンジニアリング・デザインをアーキニアリング・デザイン〔AND〕と呼称し、又夫々の関係を見据え歴史的発展過程から、未来の建築へ向けての示唆と提案」を意図するものである。具体的には全国の学生や建築家・建築事務所などの手によって、世界遺産建築や最先端建築群の模型群を130点ほど作りビジュアルに構造デザインを見せていくものである。2008年10月18日:東京の日本建築会館を皮切りにアーキニアリング展が、全国行脚をしている。2010年2月には、日本各地を一周してきた模型が、東京丸キューブで展示されることになっている。百聞は一見に如かず!である。
その凱旋展示を知らしめるポスターを斎藤先生は秋山先生(多摩美術大学教授・秋山孝ポスター美術館長岡館長)に依頼された。そしてそのポスターが、漸く出来上がった。完成したポスターは、スイスの渓谷に架かるサルギナトーベル橋(設計はマイヤール)が、モチーフであった。ブルー基調とレッド基調の鮮やかなツインのポスターである。
斉藤研究室で、お披露目頂いた時、私は一瞬ハッとした。まるで恋人に会うような電撃感覚であった。と言うのも斎藤先生の授業で私を最も魅了したスライドの一つがこの橋であったからである。力の流れがそのままデザインされており、それに何を加えても減じてもいけない絶対美を感じたからであった。とても美しい力の流れは渓谷にかかる華麗なる舞と言ったものである。秋山孝ポスター美術館長岡の第3回美術館大学で、2人の対談が行われたのは今年の9月4日であった。
その時の話し合いから秋山先生が捉えたメインテーマが、サルギナトーベル橋である。説明によると橋は歴史をつなぎ、人をつなぎ、技術をつないで未来へ!そんなシンボルでもある!と。それをベースに様々な工法・材料別に選別された斎藤先生のスケッチが、コラボすることで完成させる秋山先生のポスターが出来上がった。トロハ賞受賞記念講演会場にてお披露目された。
人たちは、一人ひとりは尊い水滴かもしれないが、コラボレーションすることで更に大きな美しい虹が描かれていくのは何とも言えない感動物語でもあった。
再び、「コラボ de ブラーボ!」

  
トロハ賞受賞記念講演 トロハ賞の表彰状 トロハ肖像のメダル
  
メダルの裏には表彰賛歌 講演会風景 スライドでトロハ氏を紹介
  
トロハ設計のマドリード競技場 トロハ設計の水道橋 坪井先生のご紹介
  
日本大学習志野校舎ファラディーホール トロハ賞受賞メダルと賞状 斎藤先生〔右〕ご夫妻と記念ショット
  
サルギナトベール橋      国立代々木競技場     第三回秋山孝美術館大学にてコラボ講演
  
記念撮影 ANDポスターのお披露目        赤青基調でツィンポスター
  
レッド基調のANDポスター ブルー基調のANDポスター 祝賀会風景